細野晴臣『泰安洋行』

中華街のあやしく闇の深いエネルギーと、油っこい芳香。
ネオン光る横浜の港。
洋上の陽気なマドロスさん。
琉球に咲くプーゲンビリアとハイビスカス。
カリブに吹く熱風。
月に吠えるスマトラの虎。
浮世絵のフジヤマ。
天竺の菩提樹。

そんな情景をいっぺんにゴッタ煮にしてやったぞ!
さあ日本人よ踊れ!
ポンチキ♪ ポンチキ♪

という音楽。
陽気で、そしてワケが分からない。

タチが悪いのが、
「エキゾチカ」「ワールドミュージック」といった
完全に別世界のものにもなりきっていない点で、
確かに日本のポップミュージックの延長線上にある手応えがある。

これが底抜けの驚愕であり、
そしてこの上なく幸福なことだ。

今いる日常と地続きであるからこそ、
自分が生きてきた世界を揺るがすパワーがある。

このアルバムを聴いてしまったら、
今までと同じ自分ではいられない。
気がつくと「蝶々-San」を聴きながら
熱帯を駆け巡る風と同化し、
あやしく腰を振って踊っている自分がいる。

真夏の暑ーい日に、
インドネシアかベトナムあたりの豆でいれた、
苦いアイスコーヒーを飲みながら聴くべし。

次に聴くべきは・・・

とりあえず細野氏の「トロピカル3部作」を
制覇しないワケにはいくまい。

『トロピカル・ダンディー』は、遠い海に憧れながらも
まだ軸足は日本の都市にある感触。初学者向けか。

『はらいそ』は、旅を終えてコンクリートの都市へ戻ってきたはずなのに
心だけは西方浄土か月の砂漠かへと飛び出してしまったかの様。
『泰安洋行』が「健全にイっちゃってる感じ」とすれば
『はらいそ』はアブない、とりっぷ。

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